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2025年07月30日

人類進化は「優劣」か?

 この半年ほど世界史関連の読書をしていて、「現生人類がアフリカ発で世界に広まったとはいうものの、無人の領域のフロンティアであったわけではなく、あちこちに旧人その他もおったんやんね」と思い出し、何冊か読んでみた。

まずは図書館で見つけた少々古い本から。

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●『ネアンデルタール人類のなぞ』奈良貴史(岩波ジュニア新書)
 2003年刊行で既に二十年以上経っているが、人類史の現在の知見がおおよそ固まった後の本なので、一応現役で読めそう。

 二十世紀半ば以前の説は、そもそも発掘された化石や遺物が限られており、そこに人種差別や優生思想も微妙に影響して見方を誤った節が感じられる。
 たった一つの発掘から劇的に考え方が変わりうる分野だけに、筆者の解説の進め方はリスペクト出来る。
 「旧人」ネアンデルタールは、ヨーロッパから古代オリエントあたりの範囲で寒冷地適応して暮らしていた。
 あくまで「隣人」であって、現生人類の直接の祖先ではない。
 後からアフリカからやってきた現生人類とは数万年単位で「共存」しており、共通の石器等から文化の交流もあったらしい。
 発掘も行う研究者自身が書いた本で、文章は非常に堅実。「確実にわかっていること」「推定されること」「間違っていたと判明したこと」を切り分けつつ、人類の進化を研究史に沿って解説してある。


 人類の進化を扱った書籍は他にも多数出ているが、今現在書店で入手しやすい新書としては、以下のものがある。

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●『人類進化の700万年』三井誠(講談社現代新書)
 一般にイメージされる「人類進化」と、2000年代半ばの時点での研究の解離の部分が、わかりやすく解説されている。
 私は子供の頃から古生物ファンで、地球誕生から人類の進化まで図鑑や書籍で楽しんできた。
 古生代から中生代までについてはその後も断続的に情報収集してきたが、新生代や人類については80年代以来あまり情報に接してこなかったので、色々頭の中が更新される。
 著者は生命科学、古生物学、環境問題担当の記者とのこと。私とほぼ同世代なので、子供の頃読んでいたであろう本が想像できる(笑)
 絶滅人類、人類の進化というテーマは、この百年ほど人種差別や優生思想とも微妙に絡んできた。
 私が情報を追っていた80年代の知見で、なんとなく「こうかな」と認識していたことの中にもまだまだ「偏見」が混入していたことを知った。
 わかりやすい図が多数収録されており、読んでよかったと思った。
 この本も既に20年前の刊だが、2021年に14刷なので、内容的にはスタンダードなのだろうけれども、念のために近年刊行の本も読んでみる。

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●『絶滅の人類史』更科功(NHK出版新書)
 著者の専門は分子古生物学。
 先の二冊とも内容的に重なるが、2018年刊行で情報が新しいこと、語り口が平易で短い解説を積み重ねていくスタイルが中高生にお勧め。


 アフリカを旅立った現生人類が、他の人類とも交雑しながら世界中に広まっていく過程を、より詳細に追った新書としては以下の本がある。
 世界史の内容の「前史」として読むには、これが一番良いかもしれない。

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●『人類の起源』篠田謙一(中公新書)



 絶滅人類と現生人類は、どうしても「優劣」で比較してしまいがちだ。
 「進化」とくに「人類史」というテーマは、雑に扱うとすぐに人種差別や優生思想に収斂してしまい、サブカルチャーの世界での扱われ方にはそうしたケースが多くみられる。
 ここまでの四冊、いずれも絶滅人類と現生人類の差を安易に「優劣」で判断し、分断する見方を、かなり注意深く丹念に解除していく内容であったと読んだ。
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2025年07月29日

サピエンス以前、地学と古生物学の物語

 前回記事で紹介した『サピエンス全史』の冒頭に、ビッグバンから物質とエネルギーが生成する段階を「物理学の物語」、続く原子と分子の相互作用の段階を「化学の物語」、地球上の有機体の生成以降を「生物学の物語」、サピエンスの文化発祥以降を「歴史学の物語」と、端的に紹介する記述があった。
 歴史学以前は軽やかに端折り、本題に入っていくわけだが、読了して「端折られた段階」についても、ちょっと確認しておきたくなった。
 私は幼い頃から古生物ファンで、中高生の頃は地学と生物は大して勉強しなくても取れたのだが、90年代以降はあまり情報を追えていない。
 こういう時は書店の講談社ブルーバックスの棚に走るのがセオリー。
 アップデートに良さそうな本を物色してみた。
 まずは生物が発生する大前提となる地球の組成、「地学の物語」に関する本から。

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●『海に沈んだ大陸の謎』佐野貴司(講談社ブルーバックス)
 タイトルだけ見るとムー・ブックスとか大陸書房の本みたいだが、間違いなくブルーバックスだ(笑)
 一般には「海面より上か下か」でしかイメージされない海洋と大陸だが、海面の高さ自体は気象や地殻の在り方によってかなり変動する。
 現在の海面下にも様々な地形があり、場所によっては水位の下降上昇によって広い陸地が現れたり消えたりすることはあり得る。
 伝説の大陸沈没や、それ以上を思わせる規模の変動も、過去には存在したのだ。
 オカルトっぽいお題を通しつつ、オーソドックスで最新の地学の知見で幅広く解説してあり、オカルトと科学のどちらも好きだった子供の頃を思い出して楽しめる一冊。


 地球上に生命が発生してから現生人類が登場するまでの「生物学の物語」については、以下の本を選んだ。

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●『サピエンス前史』土屋健(講談社ブルーバックス)
 現生人類の備える様々な器官の起源に着目し、古生代からの地学的な条件と考え併せ、2024年時点の知見で辿っている。
 あくまで「サピエンスの前史」なので、古生物の中では別格で人気の恐竜は扱われていないが、その分哺乳類の進化の解説にページが割かれている。
 モノクロだがイラストも豊富。
 タイトルからして前回記事紹介『サピエンス全史』に乗っかっているのは明白だが、別にそれがなくても普通に読まれる価値のある入門書だと思った。
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2025年07月28日

ひ弱な人類の「認知革命」

 ある程度の世界史関連読書や教養読書を進めてきて、頭の整理のために歴史を俯瞰するような文明論を読んでみたくなった。
 そう言えば世界的なベストセラーの文庫版が出ていたなと、手にとったのが以下の本。

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●『サピエンス全史』上下巻 ユヴァル・ノア・ハラリ(河出文庫)
https://amzn.to/44TO4HX
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 原著は2014年刊なので、内容的に多少古いところもあるが、あとがき等で適宜補完はしてある。
 歯切れのよい文章に情報が詰め込まれており、「宇宙人の視点から書いた人類文明史」という態のSFとして楽しめる。
 色々気になるフレーズがあるので、心覚えにメモ。

第1部「認知革命」
・狩猟採集時代に脳の容積が最大化しており、以後やや縮小。
・物語やフィクションを共有できるようになってから、肉体的な進化以上に適応速度が上がる。
・一般に「自然と共生した持続社会」とイメージされがちな狩猟採集だが、人類による生物種の絶滅のスピードは既に上がり始めている。
・農耕以前の漁村が定住のはじまり。

第2部「農業革命」
 狩猟採集と農業の人間の生活に対してのプラスマイナスが、繰り返し比較検討される。
「小麦による人類の家畜化」という表現は面白い。

第3部「人類の統一」
 第1部「認知革命」に続き、第2部以降も別の認知革命が段階を踏んで進行していると読んだ。
 狩猟採集で五大陸の大型哺乳類を食い尽くした人類が、農耕牧畜で人口増と密集、その集団を維持するための「物語」を新規に開発したのだ。
 そして国を維持するための税制は、官僚と書記体系も生む。
 数理による書記体系は日常の言葉をあまさず記録することはできなかったが、その後の科学の基礎となり、最終的にはコンピューター、AI技術にもつながる。
 この段階で生まれた身分制、男尊女卑、人種差別については、極めて舌鋒鋭く、繰り返し分析している。
 今現在、日本に蔓延しつつある排外主義や自己責任論、女性蔑視が、いかに「型通り」で時代遅れの愚行であるか、あらためて思い知らされる。
 ばらばらだった世界を統一する「貨幣」「帝国」「宗教」という物語について、本文中の表現では「宇宙に飛ぶスパイ衛星の視点」で順に説く。

第4部「科学革命」
 次々に認知革命の段階を経てきた現生人類が、今現在その最中にあるのが科学革命。
 ヨーロッパに端を発し、全世界を巻き込んだ貨幣と帝国と科学の組み合わせによる攻防が語られる。
 乳幼児死亡率の低下と人口の爆発的な増加で地球環境に与える負荷も飛躍的に増大。
 絶滅兵器と生命科学、コンピューター技術は現代文明の終末を予感させ、初版刊行後に起こったパンデミックとAI技術の発展が拍車をかける。

 生物種としてとくに強靭ではない人類が、各時代で起こった「認知革命」を通し、いかに地球を席巻していったかを解き明かす労作。
 上下巻で800ページ近く、非常に知的好奇心を刺激される読書体験になった。
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2025年07月27日

「歴史総合」への道しるべ

 長男が高校生になってから、社会科で最初に学習する「歴史総合」という科目を知った。
 私が中高の頃の社会科は、地理をやった後に歴史、公民に進む順番だった。
 あの頃の高校社会科では、歴史は「日本史」「世界史」にはじめから分けられ、近現代史は「タイムアップ」と言う感じであまり触れられなかった。
 今の高校生は「歴史総合」で世界と日本の近代化の過程を横断的に学んでから、地理や歴史、公民分野の、それぞれより深めた内容に進む順番になっている。
 相互に影響しあい、一続きになった今の世界情勢は「近代化」の産物であり、各国の社会の仕組みも全てそれがベースになっている。
 そこをしっかり押さえた後、各分野の学習に進んでいく順序は、昔より断然合理的だ。
 近代化というテーマは現代文でもよく出題される(鷗外や漱石はそのものずばり)し、こちらも頻出の東西文明比較なんかにも内容的に直結する。
 文系科目の基礎になるのはもちろん、理系科目を学ぶ意義を知ることができるという点でも素晴らしい。
 近年の流れの中ではとくに良い科目創設なのではないかと思う。

 俄然興味が出てきて、高校で使っている教科書を開いてみると、オールカラーで図版が豊富、見ているだけで楽しいのだが、本文が少々物足りないと思った。
 実際の授業で学びを深めるための「解説付き図録」という感じで編集されているようだ。
 独習には向いていないようなので、初心者でも無理なくスタートが切れる入り口を探るうちに、前から気になっていた「NHK高校講座」のことを思い出した。
 良い機会なので無料公開されている「歴史総合」の動画二十本を連続で視聴してみた。

 NHK高校講座

 なるほど、素晴らしい。
 Eテレの情報バラエティとして気軽に観られ、しかも必要な情報はしっかり頭に入る。
 最近何かと話題の難民問題やマイノリティの権利の問題も、歴史的経緯から理解できる。
 一本20分の動画を毎日視聴するうちに、近代化、グローバル化等の基本概念が無理なく身に付き、さらに踏み込んだ学習や読書につなげていける内容になっている。
 同じ「ネットで無料視聴できる動画」でも、内容の怪しげなショート動画とは全く水準が違う。
 本当に「タイパ」を求めるなら、まずNHK高校講座をお勧めしたい。
 どの科目も高水準の内容である。


 動画でウオーミングアップ出来たら、次は読書へ。

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●『大学の先生と学ぶはじめての歴史総合』北村厚(KADOKAWA)
 カテゴリは学参になるが、高校生だけが手にとるのはもったいない読み応えだ。
 新たな政治の季節が到来し、ファシズムと向き合う覚悟が必要になってきそうな昨今、「国民国家と徴兵」「個人の権利の確立」「差別の撤廃」「自由平等」「民主主義」など、まずはスタンダードな理解を固めておくべきで、それは今の40〜50代に決定的に欠けている素養でもある。
 高校生がこうした内容を授業でしっかり学んでいる事には希望を感じるし、おっさんも若い者に負けないよう、しっかり学び直しましょう!

 そして高校社会科へつなげる中学の学習内容としては、以前紹介した『ともに学ぶ 人間の歴史』(学び舎)がお勧めです。
 以下、レビューを再掲。

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 中学社会歴史的分野で、有名進学校も使用する文部科学省検定済教科書として、一時話題になった。
 受験向けに高度な内容まで詰め込んであるのかと思いきや、内容はむしろ厳選してあり、記述は簡潔。
 科目に合わせて編集してあるが、「世界史の中の極東アジア列島」という構図が理解できるよう、内外を往還しながら平易に語ってある。
 巻頭近くに載っている時代区分図から北海道と沖縄が別立てになっており、「日本=大和」「日本は単一民族」という見方をサクッと相対化してあるのがもう既に素晴らしい。
 国内では早い段階から「民衆史」の解説があり、「少数の有名人物が切り開く歴史」という、ありがちな誤解に陥らないよう配慮してあるように感じる。
 そして私たちの世代の学校教育では流されがちだった「近代化以降」に全体のページ数の半分程度が割かれており、現代に歴史を学ぶ意味はまさにここにあることが明確になっている。
 大人が読んでも知的好奇心を刺激される通史である。
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2025年07月19日

生命科学のあの頃

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●『生物と無生物のあいだ』福岡伸一(講談社現代新書)
https://amzn.to/40u6Xi2

 このカテゴリ教養文庫をスタートするきっかけになった『世界史読書案内』で紹介されており、また信頼するレビュアーがけっこうみんな取り上げていたので読んでみた。

 私の記憶では80年代に入ったあたりで「バイオテクノロジー」という言葉が一般化し、遺伝子工学のイメージがサブカルでも使われるようになった。
 子どもだった当時、私は『ニャロメのおもしろ生命科学教室』を読んでいて、生命の在り方自体を人間が改変する時代の幕開けに、怖さと興奮を感じたのを覚えている。

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●『ニャロメのおもしろ生命科学教室』赤塚不二夫(角川文庫)
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 映画『エイリアン』でH.R.ギーガーの世界観が脚光を集め、日本のアニメでは『風の谷のナウシカ』や『聖戦士ダンバイン』等をはじめとする作品で生物的メカデザインが描かれたのも、そうした時代背景だったはずだ。

 本書『生物と無生物のあいだ』は、バイオテクノロジーの歴史を草創期から辿り、「あの頃、現場では何が起こっていたか」をミステリーのような筆致で解いて見せてくれる。
 当時の最先端の研究の現場では、きわめて個性的な研究者たちにより、創作物以上に様々なドラマや思索が展開されていたことを、あらためて知った。
 著者は分子生物学者ということだが、文章がとにかく素晴らしい。経験則で言えば理系で文章が上手い人の本は必ず面白く、この本も例外ではなかった。
 本書では「動的平衡」という表現を使って生命現象を解説しており、その表現に対して批判があるのもわかるが、一般人が手にとる生命科学の入門書として悪くないと思った。
posted by 九郎 at 17:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 教養文庫 | 更新情報をチェックする