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2026年03月24日

「新しい日」に

 子供向けの新作絵本が毎月刊行される福音館書店のシリーズは、大人が開いても面白く、勉強になることで知られている。
 子どもに読み聞かせているうちに、自分が引き込まれてしまった経験を持つ親も多いだろう。
 その中の一つ『月刊たくさんのふしぎ』の3月号として、以下の絵本が刊行された。

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●月刊たくさんのふしぎ『世界でくらすクルドの人たち 春をよろこぶ みんなで踊る』文・絵 金井真紀(福音館書店)
https://amzn.to/4suAlQX

 クルド文化では春の訪れが「新年」にあたり、世界中でくらすクルドの人々がそれを祝う「ネウロズ(新しい日)」というお祭りがあるという。
 クルドにルーツを持つ皆さんの主催により、日本でも今年のネロウズが祝われた3月22日、ニュースを見ながら子どもらとともにこの絵本を読んだ。

 クルド民族は「国をもたない最大の民族」と呼ばれ、中東を中心に3000万人がくらしているという。
 なぜそのようなことになったかと言えば、近現代に中東各国の国境線が政治的に引かれる過程で、広い地域にまたがっていたクルド人の居住区が分割され、それぞれの国で「少数民族」になってしまったためだ。
 政治的な迫害や差別を避けるために難民になった人々も数多い。
 それでも世界中で自身の文化を大切にしつつ、日々のくらしを送っているのだ。

 まずは知ること。
 SNS等の断片的(もっとはっきり言えば差別的)な言説を流し見て、「なんとなくの差別感情」を持つのは本当に良くない。
 美しいドレス、美味しい食べ物、そして世界の各地域で営まれる一人一人の生活について、考え始める第一歩になる素晴らしい絵本だ。
posted by 九郎 at 09:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 教養文庫 | 更新情報をチェックする

2026年03月22日

そこに行けばどんな夢も……

 阿弥陀如来について、史実としての起源に関する読書をぼちぼち続けている。
 お釈迦様当人は、在世時は主にガンジス川流域で伝導の旅を続けた。
 現代日本で主流の大乗仏教はそれからかなり時代が流れてからスタートし、インド半島北西部のインダス川流域で、西方文化との交錯の中で仏教美術とともに発達していったらしい。
 ここ数年「法蔵館文庫」の刊行が盛んで「絶好調」と言って良いのだが、阿弥陀如来の起源についても参考になる本が出ている。

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●『極楽浄土の起源 祖型としてのターク・イ・ブースタン洞』杉山二郎(法蔵館文庫)
https://amzn.to/4dzK6Zw

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●『仏教文化の原郷』西川幸治(法蔵館文庫)
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 そしてつい先ごろ刊行の本が今の興味の範囲にぴったりだったので、こちらから読み進めている。

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●『ガンダーラ仏教美術の謎 シルクロードが生んだ仏像と「愛の楽園」』田辺理(光文社新書)
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 ゴダイゴのガンダーラから語り起こしてあるが、筆者は1979年生まれ。
 リアルタイムでドラマ『西遊記』を観ていた世代ではないだろうけれども、それだけかの曲の影響は強いということなのだろう。
 本書は地理上のガンダーラがどこを指し、どのような歴史を辿ったのか第一章で解説されており、東西文明の交錯する地帯なので、既に色々面白い。
 東西文明のぶつかり合いから仏像が誕生する過程を、多数のカラー写真とともに紹介している好著。


 ついでにもう一冊ご紹介。

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●『新訳ミリンダ王の問い』宮元啓一(花伝社)
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 同書は平凡社東洋文庫版がよく知られているが、近年一冊にまとまった新訳が出ているのを知り、前から読みたかった。
 古代ギリシアと古代インドが交錯する時代のスリリングな対話の書である。
 ギリシア人の知的な王のインド哲学とのファーストコンタクトは、世界史や美術史をわりと真面目に二年近く勉強してきた今なら、かなり解像度高く読み取れるだろう。
 日本人は一応「仏教徒」が多いとされているが、現代人の感覚はむしろミリンダ王に近いはずで、次々と説かれる仏教哲学に新鮮な驚きが感じられる。


 これらの本をぼちぼち開いてみながら、頭の整理のためにインド半島から西へ、イラン高原を含む古代オリエントの範囲までを中心とした絵図を描いてみた。
 何かと話題のホルムズ海峡も入っている。

■試作「インド・オリエント絵図」
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(クリックで画像拡大)
posted by 九郎 at 11:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 阿弥陀 | 更新情報をチェックする

2026年03月15日

苦手な化学ともう一度

 昨年11月、岩波ジュニア新書の名著が再刊され、評判だったので読んでみた。

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●『めんそーれ!化学 おばあと学んだ理科授業』盛口満(岩波ジュニア新書)
https://amzn.to/4suwEuV

 沖縄の夜間中学を舞台に、それまで学ぶ機会の無かったおばあ達と共に化学の世界に入門する一冊。
 何よりも「学びたい」という意欲に溢れ、生活体験の豊富な生徒たちなので、授業で取り扱う内容に即した実体験が打てば響くように返ってくる。
 先生の方も生徒たちに引っ張られるように教材を思い付き、良いフィードバックの中で講座が進行していく過程が本当に楽しい本だ。

 恥ずかしながら私は中高生の頃から理科の第一分野は苦手だった。
 小学生の頃は一応「科学少年」で、図鑑や本を読み漁っていたのだが、思い返してみると生物・地学が中心だった。
 とくに古生物関連には強く、その貯金があったので中高生になってからも第二分野ではほとんど苦労しなかった。
 ところが第一分野は勝手が違っていた。
 個性派ぞろいの第二分野の先生方に比べ、第一分野は生真面目な感じの先生が多く、また私の苦手な暗記事項も多かったため、早々に「お手上げ」になってしまったのだ。

 私には本書『めんそーれ! 化学』のおばあ達のような、生活に根差した知識も実体験もないので、先生と生徒の皆さんのやりとりを、ただただ感心しながら読んだ。
 思い返せば中高生の頃、理科第一分野の先生方が授業中にしてくれた雑談は、この本にあるような「化学を生活と結びつけて身につける」ための工夫だったのだろう。
 しかしながら受験校だったこともあり、「テストに出ない」内容の雑談にちゃんと耳を傾けている生徒は少なかったように思う。
 いくら賢いつもりでも、しょせん中高生はなんにもわかっていない未熟者であったのだ。

 本書で解説される「戻る変化と戻らない変化」「金属の3大性質」「世界の3大物質」等は、「物質とは何か?」ということについてすっきりと頭を整理してくれるし、「蝋」「でんぷん」「牛乳」「石鹸」といった身近なものを通した解説は化学と生物の橋渡しをしてくれる。
 苦手意識が次々と相対化され、あらためて化学に向き合う気分になってくる構成は本当に素晴らしい。

 中高生にも大人にも、得意な人にも苦手な人にもお勧めできる入門書だった。
posted by 九郎 at 12:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 教養文庫 | 更新情報をチェックする

2026年03月12日

原発を論じる大前提

 昨日の3.11忌に合わせ、再読していた本がある。

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●『福島原発の闇 原発下請け労働者の現実』
文:堀江邦夫 絵:水木しげる(朝日新聞出版社)
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 70年代末から原発の定検作業を中心に下請け労働の現場を実体験したルポ『原発ジプシー』を執筆する著者が、それに先駆けてアサヒグラフに執筆、水木しげるがイラストを担当した幻の記事があったという。(原題「パイプの森の放浪者」)
 90年代から原発関連の本を読み漁っていた私も知らなかったその記事が、2011年の原発震災後に朝日ジャーナル編集部で発見され、本として復活した一冊である。
 添えられた多数の水木しげるのイラストが凄まじい。
 ろくな資料も無く描かれたのが信じがたいほどに、被曝労働の過酷な現実が活写されている。解説にもあるが、水木しげる本人の過酷な従軍体験が描写の源泉になっていることは間違いないだろう。
 本文は『原発ジプシー』の濃厚なダイジェスト版のような内容であり、まともな安全管理が無く、土台無理な放射線まみれの現場労働が恐ろしい。
 原発自体はほとんど当時のままであり、今現在も同様の過酷労働が行われていることは間違いなく、事故を起こした福島原発の労働現場は更に酷いものになっているだろう。
 今も昔も、原発の下請け労働は「被曝リスクを換金する」のがその本質なのだ。

 原発を稼働させるのに不可欠な被曝労働を、電力会社の正社員にやらせず、非正規雇用に押し付ける。
 そもそも電力消費地に原発を作らず、わざわざ人口の少ない地方に作り、ロスの大きい長距離送電を行う。
 私が原発を忌避するのは、もちろんひとたび事故が起こった際のリスクがあまりに大きすぎることもあるが、こうした通常運転での「悪徳」が受け入れがたいからでもある。
 端的に言うなら、原発は存在そのものが差別で成り立っているのだ。
 原発について何か論ずるならば、まずは本書で告発されるような下請け労働の現実を認識してからにすべきだろう。

 更に言うなら、再稼働派が常に持ち出す「経済性」においても、既に破綻していることが明らかだ。
 電力会社に都合の良い数字だけをいくら並べようと、廃炉と半永久的に続く放射性廃棄物の管理コストを考えれば、原発を稼働させればさせるだけ、膨大な負債が積みあがっていくのだ。
 超少子化で今後人口が減るしかない日本では、その負債は近い将来とてつもない禍根となる。

 これからを生きる若い皆さんには、以上のことをしっかり考えてほしいと切に願うのである。
posted by 九郎 at 20:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 教養文庫 | 更新情報をチェックする

2026年03月10日

「本番」間近?

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●『陰謀論と排外主義 〜分断社会を読み解く7つの視点〜』
黒猫ドラネコ、山崎リュウキチ、藤倉善郎、選挙ウォッチャーちだい、清義明、古谷経衡、菅野完
(扶桑社新書)
https://amzn.to/4blZYw2

 2026年2月衆院選の衝撃が未だ冷めやらぬまま3月に突入してしまった。
 個人的には1995年から始まったと感じているファシズムへの流れが2011年にアクセルが踏まれ、2020年のコロナ禍と共に本格化、いよいよ最終コーナーを曲がった感がある。
 12月刊行のこの本、この度の衆院選で起こったことの大半が、あらかじめ予告されていたかのような一冊だった。
 主に2020年代以降の世相や、一般側の政治状況を、SNSでも活躍する七人の論客がそれぞれの視点で振り返るのだが、こうしてみると、やはりコロナ禍は一つのターニングポイントだったのだろう。
 そしておそらく、先の衆院選が一つのターニングポイントとして語られる日が、ほどなく来るのだろう。

 このカテゴリ教養文庫でも度々述べてきた通り、私は2022年にスタートした高校社会科歴史総合を高く評価しており、それを学ぶ今の高校生の皆さんに希望を抱いている。
 興味を持って他の高校社会科の教科書も開いてみると、近代化の過程で確立されてきた人権の考え方を元に、本当によくできている。
 人権について、ファシズムについて存分に学んだ上で、今の高校生は18歳で選挙権を得ているのだ。

 ファシズムの惨禍、人権の成立過程を歴史として追ってきた高校生の皆さんにとっても、本書は2026年のリアルタイプの政治状況を理解するための、絶好の手引きになるだろう。
posted by 九郎 at 22:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 教養文庫 | 更新情報をチェックする